書名 |
交通事故で多発する “脳外傷による高次脳機能障害”とは ―見過ごしてはならない脳画像所見と臨床症状のすべて |
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筆頭著者 |
益澤秀明・著(八千代リハビリテーション病院長) |
出版社名 |
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ISBNコード |
ISBN978-4-88002-652-7 |
発行年 |
2006年3月 |
判型 / 頁数 |
B5判 / 102頁 |
分類 |
臨床医学系/脳神経・神経内科学 |
価格 |
定価3,630円(本体3,300円 税10%) |
(序文より一部抜粋)
交通事故で脳外傷を受けた被害者が外見上は回復しているのに職場や学校に戻れないような事態に陥る.物忘れがひどく,数分前のことが思い出せない.とっさの判断ができない.自己洞察力に欠ける.それだけではない.どうにか職場に戻っても,すぐに感情的にキレて周囲と衝突し,辞めてしまう.家庭内でも母親に当たりやすい.まさしく,“脳外傷による高次脳機能障害”である.
医療の進歩によって事故の被害者がより多く助かるようになり,こうした精神症状を残した被害者が増えていった.ところが,こうした症状は専門家によってもしばしば見過ごされた.そのために,十分な公的支援を受けられず福祉の谷間に落ち込むこともあった.一般に,自己洞察力に乏しい被害者本人よりも,こうした被害者を抱える家族が苦しみ悩んだ.こうした症状はいつとはなしに高次脳機能障害と呼ばれ,やがて,各地に家族会ができて声を上げ,国を動かし,平成12年には運輸大臣の通達で交通事故の後遺症等級を認定する機関である自動車保険料率算定会,通称「自算会」(現:自動車保険料率算定機構)に高次脳機能障害認定システム確立検討委員会が設置された.本書の内容はそのときに答申された高次脳機能障害(“脳外傷による高次脳機能障害”)の診断基準がベースとなっている.
従来の専門家が障害を見過ごしたり,あるいは,軽く判断した原因のひとつは,皮肉なことに,これを高次脳機能障害と命名したことであろう.この命名により,従来の古典的な高次脳機能障害の見方が踏襲された.その結果,臨床症状のなかでも,情動障害・人格変化が見過ごされやすくなった.知能検査(神経心理学的検査)に頼るあまり,情動障害・社会的行動障害の評価がおざなりになりやすくなった.
そればかりではない.脳画像の読影においても,古典的な高次脳機能障害の視点では見落とすところが多々あった.ひとつには,専門家には高次脳機能障害は前頭葉や側頭葉などの局在性脳損傷が原因であるとの思い込みがあった.そのため,専門家は慢性期の脳画像で脳挫傷や出血などの局在性脳損傷痕を探すことには注力したが,全般性脳室拡大や脳萎縮には注目しなかった.つまり,「木を見て森を見ず」状態であった.また,わが国の医療制度では急性期から慢性期まで一貫した施設で患者を診ることは少なく,専門家といえども受傷当日から慢性期に至る脳画像を並べて一覧観察する機会は少なかった.よしんば,受傷当日の脳画像が入手できても,当日は脳が腫脹しているとの思い込みがあった.また,慢性期の脳室拡大を見ると,これは水頭症であるとの思い込みもあった.こうして,交通事故後の高次脳機能障害では脳画像所見は不定で役に立たないとの誤解が蔓延していた.
しかしながら,“脳外傷による高次脳機能障害”では,本書で一貫して示しているように特徴的な脳画像所見があり,診断には脳画像の読影が鍵を握っていると言っても言い過ぎではない.上記委員会では,脳外傷後に発生した高次脳機能障害が古典的な従来の高次脳機能障害とは臨床症状・画像所見の両面において違いがあることを明確にするために,また,診断の見過ごしを防ぎ,もって交通事故被害者の障害が正当に評価されるように,これを“脳外傷による高次脳機能障害”と命名した.本書でもこの命名を踏襲している.なお,マスメディアによる使用先例もある.
脳神経外科,神経内科,リハビリテーション科の専門医はもとより,交通事故や労災事故などによる脳外傷患者の医療・福祉に関心のある方々には是非一読してほしい.著者が本書のテーマに沿った講演をしたときに,「目からうろこが落ちました.」と言われたことがある.読者の方々も是非そうした体験を味わってほしいと願っている.
本書では,“脳外傷による高次脳機能障害”の輪郭を描き出したが,それはとりもなおさず,びまん性軸索損傷に頁の大部分を割くことであった.脳外科医に知られているびまん性軸索損傷急性期の臨床像と画像所見を,最新の定義を含めて,網羅することになった.脳外科医の手を離れ,リハビリ担当者が接することの多い慢性期の病態もびまん性軸索損傷の慢性期像として理解できることも示した.つまり,本書はびまん性軸索損傷をキーワードにして,脳外傷の急性期と慢性期の橋渡しをしたとも言えよう.
第1章 軽度から最重度まで,脳画像所見から読み解く“脳外傷による高次脳機能障害”──全般性脳室拡大がキーワード
● 重度の“脳外傷による高次脳機能障害”(症例1)
● 軽度の“脳外傷による高次脳機能障害”(症例2)
● 外傷後植物状態(症例3)
● “脳外傷による高次脳機能障害”の読影上のポイント
第2章 受傷直後の脳画像は“正常”のこともある
● 受傷当日は正常脳画像例(症例4)
● 受傷当日は正常脳画像例(症例5)
● 受傷当日はほぼ正常脳画像例(症例6)
● 正常脳画像所見を呈するびまん性軸索損傷の診断上のポイント
コラム ボクサー脳
第3章 急性期の迂回槽・中脳周囲槽出血
● 迂回槽出血と脳室出血が認められた例(症例7)
● 迂回槽出血例(症例8)
● 迂回槽出血と脳室出血が認められた例(症例9)
● 迂回槽出血の診断上のポイント
第4章 急性期の脳室出血が意味するもの
● 全脳室出血例(症例10)
● 側脳室下角にニボー(水平液面)が認められる例(症例11)
● 見落とされがちな脳室出血例(症例12)
● 外傷性脳室出血の診断上のポイント
第5章 滑走性脳挫傷(傍矢状部白質剪断損傷)と脳梁損傷
● 滑走性脳挫傷と脳梁損傷があり,痙性片麻痺を伴う(症例13)
● 滑走性脳挫傷と脳梁損傷があり,痙性片麻痺を伴う(症例14)
● 滑走性脳挫傷があり,痙性片麻痺を伴う(症例15)
● 滑走性脳挫傷と脳梁損傷の診断上のポイント
第6章 外傷性基底核損傷(外傷性基底核出血)
● 基底核出血が増大した例(症例16)
● 基底核損傷から小出血に発展した例(症例17)
● 左視床・内包・基底核にかけての出血と右視床出血が見られた例(症例18)
● 外傷性基底核損傷の診断上のポイント
コラム びまん性軸索損傷とは・前編
第7章 脳幹損傷,小脳損傷
● 脳幹出血例(症例19)
● 脳幹損傷例(症例20)
● 小脳出血例(症例21)
● 脳幹損傷・小脳損傷の診断上のポイント
コラム びまん性軸索損傷とは・後編
第8章 脳挫傷(局在性脳損傷)が目立つ症例
● びまん性軸索損傷と側頭葉挫傷の合併例(症例22)
● 前頭葉挫傷が目立つ例(症例23)
● 前頭葉挫傷例(症例24)
● 前頭葉の脳挫傷痕が目立つ例(症例25)
● 脳挫傷(局在性脳損傷)合併例の診断上のポイント
コラム 知能検査・神経心理学的検査の限界
第9章 外傷性水頭症と誤診されやすい脳室拡大
● “水頭症”に対する脳室シャント手術が無効であった例(症例26)
● “水頭症”に対する脳室シャント手術が無効であった例(症例27)
● “正常圧水頭症”に対する脳室シャント手術が無効であった例(症例28)
● 急性期閉塞性水頭症をきたした例(症例29)
● 外傷性水頭症と誤診しないための診断上のポイント
第10章 受傷当日の脳画像は平常時の脳室サイズを反映している
● 受傷前からパーキンソン病だった例(症例30)
● 以前からの慢性進行性脳疾患に脳外傷が加わった例(症例31)
● 前頭葉挫傷が目立つ例(症例32)
● 急性硬膜下血腫例(症例33)
● 受傷前の脳画像が入手できた場合の診断上のポイント
第11章 老年認知症(痴呆)(内因性認知症性疾患)と区別がつくのか
● 下肢外傷をきっかけに老年認知症(痴呆)が進行した例(症例34)
● 前頭側頭型認知症(痴呆)が疑われる例(症例35)
● 進行性核上性麻痺が疑われる例(症例36)
● 老年認知症(痴呆)が主体であるが,
“脳外傷による高次脳機能障害”も否定できない例(症例37)
● 老年認知症(痴呆)を鑑別するポイント
コラム 一酸化炭素(CO)中毒
第12章 “脳外傷後の高次脳機能障害”を否定する──やはり脳画像所見が決め手
● 脳表の小さな脳挫傷例(症例38)
● 頸椎捻挫例(症例39)
● 自律神経失調体質と診断される例(症例40)
● “脳外傷による高次脳機能障害”を否定するポイント
コラム ネットワークの働き